AGCグリーンテック株式会社男女差別訴訟

東京地方裁判所勝訴判決にあたっての声明

1 原告は、AGC株式会社の100%子会社であるAGCグリーンテック株式会社(以下「AGCグリーンテック」という。)に勤める「一般職」女性である。

後述の訴訟提訴時(2020年8月14日)まで、AGCグリーンテックでは、「総合職」が過去1名の女性を除き全て男性であり、「一般職」は1名を除き全て女性であった。「一般職」男性は、原告が加入をする労働組合が男女差別是正を求めた後に「一般職」として採用されている。

このような中、AGCグリーンテックは「総合職」には借り上げ社宅制度(以下「本件社宅制度」という。)を利用させて賃料の8割などの負担をするが、「一般職」には住宅手当を支払うのみであり、大きいときには約24倍もの格差が生じていた。

また、原告は、「総合職」である上司が行っていた業務を引き継ぎ遂行していたが、原告よりも後に採用された「一般職」男性は、原告よりも大幅に高い格付けを受けており、賃金についても大幅な格差が生じていた。

そのため、原告は、2020年8月14日、①本件社宅制度が「一般職」(女性)には適用されないことが雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)第6条2号・均等法施行規則1条4号、均等法7条、民法90条に反し違法であり、及び②「一般職」男性との賃金格差が労基法4条・民法90条の公序良俗違反の男女差別であり違法であるとして、AGCグリーンテックを被告に、東京地方裁判所へ提訴した(以下「本件訴訟」という。)。

2 2024年5月13日、東京地方裁判所民事第33部合議乙B係(別所卓郎裁判長、根本宜之裁判官、大門信一郎裁判官(口頭弁論終結時))は、「一般職」男性との賃金格差について男女差別を認めなかったが、本件社宅制度について間接差別と認め、不法行為に基づく損害賠償請求を認容する判決を言い渡した。

本判決は、本件社宅制度について、「雇用分野における男女の均等な待遇を確保するという均等法の趣旨に照らし、同法7条の施行(平成19年4月1日)後、住宅の貸与であって、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするものについても、間接差別に該当する場合には、民法90条違反や不法行為の成否の問題が生じると解すべきであり、被告の社宅制度に係る措置についても同様の検討が必要である。すなわち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率、当該措置の具体的な内容、業務遂行上の必要性、雇用管理上の必要性その他一切の事情を考慮し、男性従業員と比較して女性従業員に相当程度の不利益を与えるものであるか否か、そのような措置をとることにつき合理的な理由が認められるか否かの観点から、被告の社宅制度に係る措置が間接差別に該当するか否かを均等法の趣旨に照らして検討し、間接差別に該当する場合には、社宅管理規程の民法90条違反の有無や被告の措置に関する不法行為の成否等を検討すべきである」と判示したえうで、「少なくとも平成23年7月以降、社宅制度という福利厚生の措置の適用を受ける男性及び女性の比率という観点からは、男性の割合が圧倒的に高く、女性の割合が極めて低いこと、措置の具体的な内容として、社宅制度を利用し得る従業員と利用しえない従業員との間で、享受する経済的恩恵の格差はかなり大きいことが認められる。他方で、転勤の事実やその現実的可能性の有無を問わず社宅制度の適用を認めている運用等に照らすと、営業職の採用競争における優位性の確保という観点から、社宅制度の利用を総合職に限定する必要性や合理性を根拠づけることは困難である。そうすると、平成23年7月以降、被告が社宅管理規程に基づき、社宅制度の利用を、住居の移転を伴う配置転換に応じることができる従業員、すなわち総合職に限って認め、一般職に対して認めていないことにより、事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続け、女性従業員に相当程度の不利益を与えていることについて、合理的理由は認められない。したがって、被告が上記のような社宅制度の運用を続けていることは、雇用分野における男女の均等な待遇を確保するという均等法の趣旨に照らし、間接差別に該当するというべきである。」と判示した。

3 世界経済フォーラム(WEF)が公表する「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2023年版において、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位である。

また、内閣府男女共同参画局によると、日本において、2021年の男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性一般労働者の給与水準は75.2であり、女性の賃金は、4分の3にしかならない。

このような中で、男女間での法の下の平等(憲法14条1項)を実現し、男女差別の是正を図ることは急務であると言わざるを得ず、本判決が間接差別を認定し、違法との判断を下したことは積極的に評価されるべきものである。間接差別として違法と判断されたのは日本で初と思われ、この点も髙く評価される。

原告、弁護団及び原告を支援する労働組合は、AGCグリーンテックに対し、本判決を真摯に受け止め、男女差別の是正を自ら図ることを求める。

 

2024年5月13日

原告

原告弁護団

ユニオンちよだ

千代田区労働組合総連合

千代田区労働組合協議会